熊本県植木町の有機農家、里奏園の寄元和弘さんを訪ねた、
旅するクーネル=井上よしおさん。
自らも農薬や化学肥料を使わない野菜づくりの経験を持つ井上さんが、
有機栽培と自然栽培の両方を実践している寄元さんに
率直な質問をぶつけていく。
2人の会話に聞き耳を…。
文・写真=坂田圭介


井上よしおさん=旅する料理人(旅するクーネル/三瀬スパイス研究所)
福岡の大名で、10年間ワイン食堂「食堂クーネル」を営んだ後、1年間の世界一周旅行へ。帰国後、佐賀県三瀬村に移住し、カレーの移動販売を始める。現在は、スパイス料理の教室や講師としても活躍中。



土砂降りの雨の中
寄元さんの畑で野菜を収穫

 鶏舎を出て、畑に向かう。相変わらずの土砂降りだ。
カッパ&長靴姿になった寄元さんの後ろを、傘をさしてついていく。この日の料理の食材となる野菜を収穫するためだ。傘を叩く雨の音で、よく声が聞き取れない。「こちらは有機栽培、こちらは自然栽培の畑です」と、寄元さんの声も途切れ途切れ。
寄元さんは有機栽培から野菜作りをスタートしたが、途中から有機肥料も与えない、無肥料の自然栽培も取り入れるようになった。できれば、すべて自然栽培にしたいけれど、作物の特性や畑の環境などによっては思うように育たないものもある。プロの農家として、一定の収穫量と品質、そして収益を得ることを前提に考えると、全作物を自然栽培にするのはリスクが大き過ぎると考えている。もし、自給用としてだけ野菜を育てるのであれば、迷わず無肥料栽培を選択すると話す寄元さん。逆にいえば、そこが寄元さんのプロとしてのこだわりなのだ。

ズッキーニの畝の前で。雨は降り止む気配を見せない

有機栽培と自然栽培
プロとしての折り合いのつけ方

寄元 もし、農業で食っていかなくてもいいのなら、私は自然農をやっていると思います。それが一番手がかからない方法でもありますし、自分がやりたい究極の農法でもあります。でも、現実には今、無肥料で作っているのは麦とかレタスとかニラくらいですね。やはり、無肥料栽培だと収量が少ないんです。商品として売れるレベルに達さないのであれば、有機栽培でやります。
井上 味に違いはありますか。
寄元 美味しさの比較は難しいですね。条件や品種によっても違いますし。一般的にいえば、厳しい条件下でゆっくり育ったものは、味が濃い傾向にあるとは思います。ただし、大きさは自然栽培のものは小さいですし、うまくやらないとすぐにトウが立って筋張ってきたりします。食感も全体的に硬い傾向があると思います。
井上 色は薄いですよね。
寄元 うちは有機栽培でもあまり肥料を入れないので、全体的に野菜の色は薄い方だと思います。いっぱい入っているところは、緑が濃いですよね。とは言っても、品種によってもかなり変わるし、土のコンディションや水はけなどにも大きく影響されます。隣り合わせの畑で、同じ作物を同じ栽培法で作っても、出来が全然違ったりします。
井上 生えてる草も、畑によって違いますね。
寄元 畑ごとの環境の違いを、そこに生えている草が象徴しているわけです。
井上 それが自然かもしれませんね。俺は楽したいから、自然農かな。一時期、畑を借りていたんですが、長期の旅に出るとどうしても管理ができなくなって、一度返したんです。でも、また最近裏庭で野菜を作り始めました。とにかく、野菜づくりはやらないとダメだなって思って。
寄元 耕作放棄地だったようなところを開墾すると、最初は作物がすごくよくできるんですよ。それまでに堆積した養分とかがあるので。でも、野菜を育てることによってその養分が吸い上げられ、地力が落ちていく。結果として、何らかの有機物を畑に入れる必要が出てくる。そのあたりも、自分の気持ちに折り合いをつけていくのは難しいですね。
井上 自然栽培の方が虫も来ないですか。
寄元 有機栽培でも、肥料が少ないと虫も少ない傾向にあります。でも、来ないということはないですね。少ないというだけで。
井上 自然栽培をする人は宇宙を語り出したりするイメージがありますが。
寄元 哲学ですよね。でも、私の場合は、暮らしていかないといけないので。理想を追い求める日々は、まだまだ続きます。

野菜の香りを確かめる井上さん(左)と見守る寄元さん(右)

少量多品目の有機栽培で
リスクを分散

井上 これならやっていけるという自信が持てたのはいつくらいからですか?
寄元 ここ2、3年くらいでしょうか(笑)。10年くらいやってると、まあまあ思ったような野菜ができるようになるんです。でも、そのことと経営が安定するということとはまた別の話。消費者の方たちのニーズにも波があって、いいものができたと思っても、売れたり売れなかったりの波はあります。そこうはもう、あんまり考えないようにしていますけど(笑)。
井上 少量多品目もこだわりですか。栽培品目を絞り込むのも、経営的な選択肢だと思いますが。
寄元 絞り込んだ作物が、ちゃんとできればいいんですけどね。うちは20〜30種類くらい作るんですけど、やっぱり何かこける作物があるんです。でも、多品目を作っていると、よくできた他の野菜がカバーしてくれる。それが、有機農業の基本的なところだと思っています。
井上 慣行栽培では、そのリスクをなくすために農薬や化学肥料を使うんですもんね。野菜セットの配達も自分でやってるんでしょう。
寄元 配達件数は50軒ほどです。最近は野菜セットよりも、飲食店などから卵の需要が多くなっています。本当は個人のお客さんに販売したいという思いはあるんですが。できるだけ直接お届けして、畑の状況なども伝えながら野菜を使っていただければと思っています。

生命力にあふれたにんじん。さて、どんな料理に変身するのでしょうか

 寄元さんの野菜や卵には、毎週畑や鶏舎の様子が書かれた通信が添えられている。この野菜を植え付けたとか、収穫が始まったとか、暑くて鶏が卵を産まないとか、現場の様子がリアルに綴られている。そうすると、卵の大きさが不揃いだったり、いつもより数が少なかったりしても納得できる。逆に、いつも安定して同じ品質のものが提供されることの不自然さを感じるようになる。世の中では企業努力の名の下に、均一化、安定化、高品質化、低価格化が図られ続けているが、そのことの弊害にもまた目を向けなければと考えるようになる。
 
さて、次回はいよいよ井上さんの調理開始。もちろん、材料は寄元さんの野菜と卵、それと鶏肉。このところの酷暑、猛暑にぴったりのスパイシーな料理の数々をご紹介しよう。
(つづく)

この日収穫した野菜たち。これに卵と鶏肉が加わって、いよいよ調理開始