叶 祥子さん(歯科医師/食養生指導)
1958年、神奈川県生まれ。大学歯学部に在学中、従来の対処療法による医療に疑問を感じはじめ、予防医療を目指す。神奈川県で歯科医院を開業後、東日本大震災を機に熊本県南阿蘇村に移住。持続可能なコミュニティーを目指す「トランジション・タウン南阿蘇」で、食養生の個人指導などを行っている。毎週日曜(9:00〜17:00)は「たねまきハウス」にてサンデーマーケットを開催。食養生の相談にも応じている


自分がどう生きたいのかを見極める

全ての人の体は、口から入る食べ物でできています。食べている物で体を組成する細胞が生まれているのです。ですから私は、「こんな体になりたい」という自らの意志を持ち、目指す体が作られるような食べ物を選んで食べることで、体を変化させることができると考えます。
まずは自分が日々食べている物を振り返って知り、考えることから始めましょう。食べ方の選択肢をたくさん持っている人ほど、体を作っていくコントロールができるようになります。すると不思議なことに、人生が思っているような方向に進むようになるでしょう。それが、私が食養生をおすすめする理由です。
生き方の選択肢は無限です。こうしなければいけないという決まりは全くありません。「自分がどう生きたいか」だけです。しかし、自分のことは、自分が一番分からないもの。多くの人は、〝一般的に体にいい〟と言われているものを選んで食べて、安心しがちです。これは、間違っているのではないでしょうか。
人間の体は一人一人違います。食べる量や時間、食材の組み合わせなども異なります。体に良いといわれている食べ物が、本当に今の自分の体に合うものなのかどうかを考えたいものです。それらを総合的に振り返り、食べる物も少しずつ変えてみる。体に良い変化が現れたと感じたら、さらにその方向に進めばいいと思います。
少し前の時代から、私たちの生活環境は劇的に変化しています。皆さんも、農薬や化学合成肥料を使わずに栽培された食材がいいということはご存知でしょう。しかし、それらの食材を使ってあっても、どのような加工がされているのかなどは分かりにくいものです。昔は、近くで収穫された農産物を中心に、天然醸造の調味料などで調理するシンプルな食生活でした。添加物などのことを考えなくても良かったわけです。しかし、今は食べ物のバリエーションがとても豊富です。これが体に与える問題を複雑化させています。東洋医学の陰陽の考えのもと、陰性の食品を摂ったら陽性の食品で中庸を図れば良いというものではなくなっています。さまざまな病気の原因と考えられるものも複雑化し、食で体を調えていくことも難しくさせているのです。
今は、気をつけていても分からないうちに添加物などが体内に入ってしまいます。そこから現れる体の微妙な変化に気づかない人が大半でしょう。高齢になると、ほとんどの人が病院に行くようになりますね。おかしいと思いませんか? 病院に行く原因となるようなものを、体内に蓄積させないようにしたいものです。


〝出す力〟を高め、体と向き合う


まず、これまで体内に蓄積されてきた、内臓に悪影響を与えるものを排出しましょう。今は〝出す力〟も落ちていますから、最初に試してみてほしいのは、出す力を上げることです。出す力は体全体が関係しています。私は、腸と腎臓、肝臓、皮膚の機能を高める指導を行うようにしています。
簡単にできることの一つは、午前中に固形物を食べないこと。お粥などの流動食がおすすめです。よく噛まなければいけない固形物を食べると、肝臓が働かなくてはいけなくなります。内臓が一番エネルギーを使うのは、食べ物を消化吸収する時です。午前中を、老廃物を排出する時間と考えると、その時間帯に内臓に負担をかける食事は避けなければいけません。老廃物を排出する機能が低下するからです。朝食の内容は自由です。普段食べている物を柔らかくするだけでもいいと思います。〝出す力〟をサポートする朝食を考えてみてください。大切なのは良く噛むことです。しかし、回数が多ければいいというものでもありません。重要なのは、噛むことで出る唾液成分を体の中に入れること。ご飯は唾液が混じることでブドウ糖になります。これを、脳に届けることが大切です。噛む回数は30回ほどで十分でしょう。
子どもの食事も同様に考えます。子どもは理屈ではなく本能で行動するので、自分の体の状態を素直に捉え、食べたくない時は食べません。子どもの言うことは正しいと思ってください。動物が、具合が悪い時には食事をせず、じっとしているのと同じです。そんな時は子どもにも無理に食べさせず、寝かせて細胞を修復させてあげましょう。起きた時に、塩気のある味噌汁などを飲ませればいいと思います。


自分の体で実験し、失敗を忘れない

1日に食べる回数は、睡眠時間と関係していると考えます。一回に腹8分目くらいの食事量で疲労した内臓を回復させるために必要な睡眠時間は約3時間。1日に3回食事をすると9時間の睡眠が必要になります。ですから私は、睡眠時間の短い現代人は1日に2食でいいと思っています。また、脂っこいものや白米、甘いもの、うどんを除く小麦粉系は腸の負担になりますから、あまりおすすめしません。しかし、食べたい時は食べても構いません。食べたということを自覚し、そこから体を調えるものを考えれば良いのです。
本来、食べることは楽しいこと。毎食おいしいと感じながら食べることが大切です。決まりごとを作り過ぎ、自分にストレスを与えてはいけません。人間は体が欲しているものを食べる時においしさを感じます。何を欲していたのかが、食べた瞬間に分かる時もあります。満腹感ではなく、満足感を得られたかどうかは、体調次第です。毎食、自分が何を欲しているのかを考えてみましょう。自分の体で実験してみて、失敗を忘れないようにし、体との対話を続けましょう。

冷えやアレルギーを解消するには

冷えは、末梢の血行不良からくるものです。万病の元となるので、解消したいものです。血液は老廃物を腎臓に運び、腎臓で濾されて尿になります。老廃物の分子量が大きいと目詰まりし、尿として濾し出されず、また全身に流れていきます。血流が良くなくなるため、冷えが起こるのです。一旦、肉や魚、大豆系の食物に含まれるたんぱく質の摂取を控えてみましょう。どうしても肉を食べたいという場合は、肉を我慢するのではなく、体を調える方法とその量を考えればいいのです。毒消しになる食品も一緒に摂取することを心がけてください。例えば、コーヒーやりんごです。キャベツやじゃがいも、きのこ類を付け合わせるだけでもいいでしょう。また、アレルギーもたんぱく質の過剰摂取が原因の一つに考えられます。アルツハイマーなど、脳機能の低下予防には、甘い物とお酒を過剰に摂らないようにします。


食べ方で人生が変わる

今後は、皆がいかに健康で幸せに、思いやりを持って生きていけるかが問われる時代になります。心の余裕は体の余裕がないと出てきません。人は一人では生きていけませんから、周囲の人が健康であることも重要です。毎日の食材はつい価格で選びがち。しかし、将来の医療費を考えると、日々の食事に必要なお金はかけ、健康維持に繋げる方が価値のあることではないでしょうか。
自ら口にする食材が、どのようにして作られているかを考えることは、自己防衛に繋がります。どのような食生活をするかは、その人の生き方そのものです。食べ方で、その人の人生が変わります。信頼できる生産者と繋がり、手間をかけず、美味しく食べられる調理法を身につけて、食を豊かに、体を調えるものとして欲しいと思います。