九州の食卓セレクトショップに、炒ったみさを大豆が届いた。
一粒口にしてみたら、しっかりした大豆の味に心地よくなり
食べる手が止まらない。
その作り手が、ある日、ショップを訪ねて来てくれた。
「オーガニックビーツ」の小倉淳さんと典子さん、治馬くん。
山都町で米と栗、野菜、真菰なども育てているという。
夏の真っ盛り。栗と米、真菰の収穫が一斉に始まる前に
田んぼと畑にお邪魔させてもらった。

文=谷端加代子 写真=坂田圭介


農薬を使わずに育てる栗と米、たくさんの野菜

「猪との競争なんです。どうやって食べるのか分からないんですが、すごく上手。イガだけ残っているんですよ」。
熊本県山都町。小倉淳さんと典子さんは「Organic Beats(オーガニックビーツ)」の名で、栗と米をメインに栽培している新規就農の夫婦。8月上旬の、今年は特に蒸し暑かった空気に包まれ、まだ緑色のイガでいっぱいの栗園を案内してくれる。典子さんに背負われた治馬くんも一緒だ。

8月中旬。緑一色の栗園で。小倉淳さんと典子さん、治馬くん

2人が管理している栗園は約7反。「9月初旬から収穫できる早生と、2週間くらい遅れて収穫を始める晩生があって、全部で200本くらいかな。1シーズンで1トン近く収穫します」と淳さん。農薬や化学合成された肥料、除草剤を使わない栗園は、雑草との戦いだ。ただ、ところどころには山菜もあり、棒を立てて目印にしている。「これは山のアスパラガスといわれている〝あまどころ〟。自生してたんですよ」と教えてくれる。

(写真上)「収穫時期は、たくさん落ちてくるので、拾うのが楽しい」と典子さん
(写真下)大切にしているあまどころ。5月の新芽は、甘みとぬめりがあって、すごくおいしいそう

新潟県出身の淳さんが山都町に移住したのは2011年。栗の栽培はもとより、農業の専門的な知識もなかった。しかし、「管理していた方が高齢で栽培を止めた後、5〜6年ほど放置されていた栗園があって。そのオーナーからやってみないかといわれて、生活できるかな? とは思いましたが、考えが甘かった」と笑う。放置されていたため高く伸びていた枝を、チェーンソーで1/2ほどに切る作業から始めた。以来、町内の人に教えを請いながら、栽培を続けている。淳さんは、ここがオーガニックビーツの出発点だと話す。
栗園の栗の木は樹齢30年以上の老木だそう。冬は1カ月ほどかけて剪定(せんてい)する。翌年の実を大きく育てるため、枝を見極めて切らなければならない大切な作業だ。切った枝は、干し芋を焼く時などに活用している。

「農薬を使わずに栽培しているため、キレイなものばかりじゃないんです」と淳さん

栗園から車で移動した先は、初めて見る風景が広がっていた。「放射能を除去する力が強いと聞いて」始めた真菰(まこも)の栽培地。2mほどありそうな真菰が束になって、いくつもいくつも、すーっと伸びていて美しい。引いてある山水はひんやりとしていて気持ちいい。足元をゲンゴロウやタガメが泳ぐ。
ここも、10年以上耕作放棄されていた場所。淳さんは米を栽培したものの猪の被害が大きく、真菰に切り替えた。真菰は日本全国の水辺に自生していたイネ科の植物。出雲大社の神事に用いられることでも知られる。淳さんは「お釈迦様は、真菰で作ったゴザに病人を乗せていたらしいです」と話す。
収穫時期は9月。葉を1枚ずつ、根元でポキッと折る。乾燥させて切ったものはお茶になる。パウダー状にすると、そのまま水や湯で溶いて飲める。「抹茶より繊維を感じますよ」と淳さん。

(写真上)真菰の園地は、東南アジアを彷彿させる雰囲気が漂っていた
(写真下)真菰の収穫は9月がピーク。「栗や米の収穫と重なって、寝る時間もないんです」と笑う

淳さんが、自家採種を続ける理由

新規就農者である淳さんの畑や田んぼは、広い山都町内に点在している。別の場所では、熊本・高森の在来種のみさを大豆も栽培している。次に連れて行ってくれたのは、もう少ししたらここに引っ越す予定という一軒家。裏手には水田がある。新潟から種を送ってもらったコシヒカリと、近所のおばあちゃんから分けてもらった幣立神社の献上米のイセヒカリを中心に栽培している。
水田は全部で3反。「一時期は1町ほどあったんですが、さすがに無理だなと思って縮小しました」。自家採種をして5〜6年。コシヒカリは、だんだん山都町の気候に合ってきたように思うと話す。

(写真上)みさを大豆の畑。冬の間に3〜4時間土鍋で炒って、炒り大豆にする
(写真下)稲刈りは10月中旬。刈った稲は毎年掛け干ししている。今年の新米は、九州の食卓でも取り扱う予定だ

驚いたのは、この水田のためだけに、昔の人が掘削したと思われる水路があったこと。切り立った山の岩盤をくりぬいてあり、内部はひんやり。取水口の柄杓を手に、いただきますと言うと、その声はこだまして遠くまで響いていった。無垢な山水は冷たくて、まろやか。真夏の炎天下の下、水田を潤していく。典子さんが、ペットボトルに汲み、真菰のパウダーを溶いてくれる。さっと濃い緑色が広がった。火照った体にじわーっと染み込む真菰水は、ちょっと青っぽい感じがしたが、すっきりとして爽やかだ。

取水口は20mほど先まで続いているよう。水温は4度くらい

その隣には、淳さんが〝家庭菜園をちょっと大きくしたみたいな感じ〟と謙遜する畑がある。8月中旬には、ナス、パプリカ、ピーナッツ、オクラ、インゲンなどが栽培されていた。「大玉は、今年は全滅」したそうだが、ミニトマトは路地栽培で6種類。サンマルツァーノ、ブラックチェリー、スタピス、シシリアンルージュ、カナリアなど、形も色もさまざまだ。出身地のものも作りたいと、加賀太きゅうりもある。
その8割は自家採種する。「植物の種採りをすると、その植物と一体となると感じます。家族の一員になって、一緒に生きている、生きていけると感じる」と話す。新しく食べてみたいなと思った野菜は購入して試す。年間80〜100品目ほどを育てる少量多品種の考え方で、たくさん収穫した時は直売所に出荷している。

(写真上)「まだ、いろいろな野菜を手探りしながら育てている感じです」
(写真下)加賀太きゅうり、スイートパプリカ、ナス、いろいろなミニトマト、トゥルーシーなど

水田と畑の持ち主と、引越し予定の一軒家の大家さんは異なる。先に水田を借りていたところ、一軒家の大家さんから賃貸の打診があったそう。「今住んでいるところからは田んぼも畑も遠いので、とても嬉しい」と典子さん。少しずつ手を入れてカフェっぽくしたいとか、隣接する納屋は子どもたちが集まる場所にしたいとか、それぞれに話してくれる。

「家の前に畑があると、大分楽になります」と淳さん。引っ越しの日がまちどうしそうだ

環境のこと、食のこと。考え続けている2人

淳さんは、話す表情も口調もとても穏やか。畑でも、田んぼでも、栽培方法や周囲の環境を教えてもらううち、「そのモチベーションはどこからくるのか?」ととても気になる。
「18〜30歳は、東京のホテルで美容師をしていました。バイクで日本一周をした時、美しい風景と出会う一方、ゴミが放置されている風景も見たんです。地球環境に危機感を持っていたこともあり、30歳を機に自分の好きな、自然に関わることをしたいと決めました」とのこと。新潟で2年ほど林業をする間、ボランティアで農家を手伝っていたそうだ。そんな時に福島原発事故が起こり、今でなければ一生行かないだろうと、淳さんは何度か訪ねた九州への移住を考える。「実家は住宅地の中にあったので、自然の中に住みたいと思ったし、より汚染されていないものを福島とかに送りたいと考えたんです」。
そして何より、「自分という最小単位が、生活スタイルを自然環境に沿わせるのが第一歩なのかなと思いました。農業というより、自給自足に近い生き方。〝農〟を通して環境に貢献できたらいいなというのかな…」。続けて、「自然が好きで、農作業はきついけど、不思議と嫌にはなりません。それにもし、今止めると荒れ放題になってしまいます。日本中が荒れ放題になったらどうなっちゃうんだろう」とも。

いつもは、水田近くでおにぎりを食べることが多いそう。「たまにはいいね」と2人で笑う

典子さんが準備してくれたお昼ご飯は、「ほぼ100%、我が家で採れたもの」。ササニシキのグリーンピースご飯、野菜の盛り合わせ、おからとじゃがいものコロッケ、きゅうりとなすとビーマンと茗荷を、一年熟成させた自家製の味噌で炒めたもの。そして、真菰の葉で発酵させたみさを大豆の納豆。デザートは、みさを大豆の豆乳クリームプリン。
茨城県出身の典子さんは、保育士をしていた時、子どもたちが安心して食べられる食はどこにあるのかと思っていたそう。「あちこちウロウロしていて、宮崎県の宮崎茶房さんの所で季節労働をしていた知り合いと一緒に、2014年に九州に来ました」と言う。「そこで淳さんと出会って、そのまま居る感じ」と朗らかに笑う。典子さんは、栗をジャムにしたりペーストにしたり、シンプルな加工品作りにも挑戦している。栗は渋皮ごと素揚げするとおいしいなど、「九州の人が知らない本州での調理法もお伝えできるかなと思っています」と楽しそうだ。

2人が育て、収穫した米と野菜の料理。どれも、口の中で素材の味をしっかり感じられる。豊かな食卓だ

9月上旬、栗の収穫が始まりますと、連絡をくれた。早速いただいて、素揚げにした栗は、力強い味がした。

後日、いただいた栗をなたね油で素揚げした。香ばしく初めての味覚だった

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