「旅するクーネル」こと井上よしおさんとキャンプに出かけた。九州の食卓の取材を通じて知り合い、セレクトショップでスパイスカレーの料理教室や1日食堂を開いてもらったり、この連載を担当してもらったりと、何かとお世話になっているのだが、大抵は取材やイベントでバタバタしていて、じっくり話をする機会が持てずにいた。井上さんの作る料理はおいしい。その理由と秘密を探ってみたいと常々思っていた。そのためには、お互いの共通の趣味でもあるアウトドアで、焚き火を眺めながらしみじみやるのが一番だろうという結論に達したのである。
文・写真=坂田圭介


井上よしおさん=旅する料理人(旅するクーネル/三瀬スパイス研究所)
福岡の大名で、10年間ワイン食堂「食堂クーネル」を営んだ後、1年間の世界一周旅行へ。帰国後、佐賀県三瀬村に移住し、カレーの移動販売を始める。現在は、スパイス料理の教室や講師としても活躍中。



愛あるたべもの 文=井上よしお

願えば叶う。夢は実現する。想いは形になる…など色々な物言いはあるけれど、それは本当みたいですな。うん、本当です。
僕はずっと周りのみんなに本を書きたい!とか…物書きになるべ!とか言ってきました。ほら!今!現実その場を頂くことになりましたから。


最近は本当に感謝感謝の毎日を過ごしています、三瀬スパイス研究所、旅するクーネルのよしおです。
秋もだいぶんと深まり、朝晩の冷え込みも激しくなりました三瀬村でございます。息子のゆうとも保育園に通い出し、時間の自由が少し戻ってきたイノウエ一家。
いやあ…本当に子供の成長って早いですなあ。月並みな言葉でなんですが体感して日々感じております。


さて…頂いたこの場、特に何を書くとかお題を頂いているわけでありませんが、先日九州の食卓の社長の坂田さんとの会話のなかで…美味しいとはなんぞや??
という話になりました。うーむ…飲食店を営むワタクシにとって悩ましい命題ですな。
美味しい。美味しくない。
そりゃあ美味しいことのほうが良いに決まってますわな。んで…そもそも美味しいとは何なのでしょうね。料理人なって20数年…確かに足りない知恵で稚拙な技術を補いながら、美味しいものをお客様に提供できるように努力はしてきたと思います。でも自分の料理人人生を振り返れば恥ずかしいですなあ…世間知らずで(笑)若い自分は何の裏付けもないのに一流のつもりで仕事をしておりましたから。あー恥ずかしい…うん。何の仕事でも一緒なんでしょうが料理人だったら、美味い、不味い。
これで全てを判断しがちですよね。
ワタクシは料理人の世界が本当に全く肌に合わなくて、あの完全な縦割り社会。立場が上か下か。技術が上手いか下手か。そして…先述した味か美味いか不味いか…まあその環境に合わせられないワガママな自分だったからですけど。。。


我々イノウエ一家は一度お店を閉めて奥様とふたりで世界一周の旅に出ます。そして旅から戻りスパイスカリーを皆さまに提供するようになりました。
カレー屋さんになって始めの頃、我々は汗ダクになりながらひたすらにカレーをお客様にお出ししておりました。
ガラっとドアを開き席に座り黙ってモクモクとカレーをかっ込む方々。おれVSカレーみたいな。
我々はその在り方が本当に苦手でした。。
だってこの風景、その場に店のご主人なりサービスマンって必要じゃない??声もかけれない。。
カレーとお客様だけの関係。。。そこには美味い不味いだけの関係しかなくないですか??オーマイガッ!!
そこでワタクシは腹を決めたのです。。。
喋り倒すカレー屋さんになると!!(笑)


それでも稀に一口食べただけで帰ってしまわれるお客様。
辛いのが苦手なんでしょうな…
しかめっ面でそそくさと消えられたお客様。
スパイス効かせすぎたのかもしれませんな…
そしてテーブルの皿に残ってるワタクシの情熱の一部。。
こういう事があった夜は…そんなに不味かったのだろうか…と酒を煽っても眠れません。


そんな絶望のさなかにルヴァンというパン屋さんのオーナーの甲田さんというかたの言葉に出会いました。
その言葉にワタクシは激しくシンパシーを感じたわけです。
要約すると料理人は美味い不味いで全てを判断しがちである。
甲田さん曰くパンは目的ではなく手段であると。パンを通じて届けたい想いは安心とか安全とか人間同士の繋がりである。美味い不味いで全ての事を裁くと事の本質を欠いてしまう。。
いますな…同じ様に考える方っていらっしゃるものですよね。
ワタクシ達が旅するクーネルのスパイスチャンプルーカリーを食べて頂き伝えたい想いは平和なんです。
丸い皿を地球に見立てて、中にある色んなカリーは人類。そして色々混ぜ合わせて皆んな友達になろうぜ!
そんな想いで日々玉ねぎやスパイスと戯れながらカレーを作って、皆様とステキな時間を共有しているわけです。



ワタクシは心から我が人生に感謝しております。
それは人生の早い時期に自分が大好きで得意な料理人という仕事に出会えた事です。
本当はミュージシャンとして生きていきたかったのですが挫折したのが25歳でした。でも今再び歌い始めました。
食える食えないとか…上手い下手とか…実はどうでも良いのですよね。
やりたいからやるのであって周りの目なんか気にする必要なんてないんです。
笑う人がいたら真剣に人生を生きてないんだからと思ってます。笑えないですよ真剣に生きてる人みたら。
話を戻しますと…美味い不味いという事もモチロン大事ですよ。でも大なり小なりお金を頂き商売をされている以上、そんな不味い料理に出会った事はないと思います。
そして良い食材や適切な技術も当然重要な事ではあるとおもいますが、ワタクシ達が一番大事だと考えている事は…
想いです。愛です。気ともいうのでしょうか?
お客様に喜んで欲しい!とか、このスパイスの香りで笑顔にしよう!とか…B級だけど形の悪い有機ピーマンに命を吹き込み生産者達の想いを伝えよう!!
目に見えないこの想い。
これからの世の中で一番な事は、どれだけ目に見えない事、愛、気、想いを伝えていく事だと考えている我々でございます。
人間万能の世の中から…限られた時間と世界の中で全ての人類、生き物、環境と本当の意味での共存共栄を考えなければ、地球も人類も他の生命体に明るい未来はないでしょう。
やはり手を合わせる気持ちや、感謝する心、ご縁を大事にする。人として当たり前の事を愚直に日々繰り返して行く事が人生を生きる事だと思っております。そんな両親の背中を息子に見せて行く毎日が真の教育なのかもしれません。
ワタクシと貴方は別の人間です。だからこそ姿形から感覚まで当たり前ですが別物です。
残念ながら全ての方々に美味しいという料理を作る事は無理と考えてます。少なくともワタクシは。
僕が出来る事は今僕が出来る最高だと思える料理で、今目の前にいるお客様を心から笑顔にしたい!という想いだけです。
本当にそれが出来たら本当に嬉しい。
全く違う人間同士がスパイスを通じて少しずつでもお互いを理解して認め合い、どんどん皆んなを笑顔にできていけたら我々旅するクーネルは本当に嬉しいと思っております。
みなさん!また食べに来て下さい!!
いえい!



これからも、井上さんの悩めるおいしい旅は続くのだ。


スパイシーアクアパッツァ

■材料
旬の魚を人数分
玉ねぎ 1つ
ニンニク 3個
アサリなど貝類やイカとかエビ味が出るもの
ミニトマト 20個かトマト1個
塩 小さじ1(お好みで)


クミンシード 小さじ1
ターメリックパウダー 小さじ2分の1
コリアンダーパウダー 大さじ1
クミンパウダー 小さじ1
チリパウダー お好みの量
レモン汁 2分の1
エクストラバージンオリーブオイル たっぷり

■作り方
①現場の近くの道の駅等で美味そうなシーフード等を見つける。
②魚は内蔵、エラをとり下処理をする。玉ねぎスライス、ニンニク
みじん切り、トマトはカットする。
③熱源を用意して、フライパン等を火にかける。油を加えて、
クミンシードを入れる。弾けたら玉ねぎニンニクを加える。
4分の3のトマトを加え炒める。パウダースパイスを加える。
トマトとスパイスを馴染ませてマサラをつくる。
④魚を入れて塩を加え魚の半分くらい水を入れて、煮汁を魚にかけな
がら煮込んでいく。火が入ったら塩、残りのトマトを加えザックリ
煮て最後にたっぶりオリーブオイルを加えて乳化したらレモン汁
を加えて完成!
■魚は新鮮なら何でも良いです!白身のさかながベスト!
今ならば牡蠣など加えてもよいでしょうな…
クミンシードをマスタードシードに変えてココナッツミルクとカレーリーフ、グリーンチリも悩ましい味になるでしょう!(by 井上)

カボチャのココナッツスープカリー

■材料
カボチャ 400グラム(3分の1個)
玉ねぎ 2分の1個
ニンニク 3個


トゥナパハ 大さじ1
ターメリック小さじ1
シナモン 5センチ
カレーリーフ 20枚
モルジブフィッシュ 小さじ1
塩小さじ1
ココナッツミルク 200ccくらい
水適量
レモン2分の1

■作り方
①自宅にて…
カボチャを適当にカット。玉ねぎスライス、ニンニクはみじん。ココナッツミルクと水、レモン以外をジップロックに入れて現場に持っていく。
②現場にて…
熱源を用意して煮込み用の鍋を火にかける。
ジップロックの中身を加え、更にヒタヒタの水を加えてカボチャが柔らかくなるまで煮込む。

③火が入ったらお好みのココナッツミルクを加えて塩味を見る。レモン汁を加えて完成。■カレーリーフは無くても大丈夫!モルジブフィッシュはカツオ節や魚粉でも良いです!じゃがいもやサツマイモ、ゆで卵。何なら具が無くても美味しくできます。パンにもあいますヨ!(by 井上)
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